世界中で多くの一般市民が協働し、COVID-19の課題解決に取り組んでいます。今はインターネット等を通じて、あっという間に支援の輪が世界中に広がります。前向きに課題解決する人々の行動力や創造力を見ると、市民が危機感を持てば、持続可能な社会へ変革するのは可能だと勇気づけられます。いくつかの市民活動の事例を紹介します。
1.若者の取組
Quinn answered a request from the local hospitals for help with creating more “ear guards” to help take the pressure off…
カナダの12歳のクイン・キャランダーさんは、フェイスブックで「長時間マスクを着けても耳が痛くならなければいいのに」という医療従事者の投稿を見て、3Dプリンターで試作品を作り始めました。知人の看護師に聞きながら改良を重ね、マスクの紐部分をひっぱり、バンドで固定する器具を完成させました。母親がフェイスブックに投稿すると、世界中からリクエストが殺到し、これに感化された人々が同じ器具を作り、各地域の医療機関に寄贈するようになりました。
イギリスの15歳のルドラ・ナカデさんも、学校閉鎖で自宅待機中、「医療従事者が、防護服なしでコロナに対応している」と耳にし、3Dプリンターでフェイスシールドを製作し、病院に寄贈しました。医療スタッフが喜んでくれたので、彼はクラウドファンディングで材料費を集め、製作を続けました。それを見た人たちは3Dプリンターで製作に協力するプロジェクトを開始し、4月5日の時点で、4,800人以上のボランティアが参加しています。
メキシコの12歳のホルヘ・マルチネスさんは、医療資材が不足していると聞き、3Dプリンターを使って、顔を覆うシールドを作ることを思いつきました。すでに100個以上を、地元の病院関係者に提供し、今も製作を続けている。マルチネスは「コロナは目や鼻、口から感染するため、医療従事者に顔を覆ってもらう必要があるから」と話しています。医師は「とても実用的で、非常に便利だ」と感謝していました。
2.市民ボランティアと地方政府の協働
スペインでは、市民団体が、地元政府のオンラインマップを活用し、ロックダウン中に、支援が必要な人とボランティアをつなげるサービス[1]を立ち上げました。必要な物資や住所を登録すると、オンライン上の地図にマークされます。ボランティアはそのマークをクリックし、支援します。例えば、「マスクが買えない」と登録すると、ボランティアがマスクを集めて届けます。またボランティアが「高齢者の買い物代行を請け負う」と登録すると、高齢者や遠方にいる家族が、支援を依頼できます。地図で表示されるため、支援が行き届いてないエリアの状況も確認できます。また、食料や物資を有効利用できる。現在、20万人が利用しています。
[1] FrenaLaCurva https://es.mapa.frenalacurva.net/views/map(2020年5月9日最終確認)
3.学生ボランティアと企業の協働
米国フィラデルフィアでは、30以上の大学が共同制作し、学生ボランティアが、企業に寄付を募って運営する「Philly Mutual Aid – Neighbors Helping Neighbors」[1]というサービスが開始されました。Googleフォームを利用しており、必要な支援物資や連絡先を登録すると、支援ボランティアがマッチングされます例えば、外出のリスクが高い高齢者や障害者に、食料や医薬品など支援物資を届けることができます。現在、無利子の資金提供から自炊した食事の提供まで、幅広い支援が行われています。
[1] PHENND「Neighbors Helping Neighbors: Philly Mutual Aid」http://phennd.org/update/neighbors-helping-neighbors-philly-mutual-aid/(2020年5月9日最終確認)
4.3Dプリンター技術者と医療機関の協働
オリジナルの人口呼吸器バルブ(左側)と3Dプリンターで作ったもの(右側)
出典:3D Printing Media Network https://www.3dprintingmedia.network/covid-19-3d-printed-valve-for-reanimation-device/
深刻な医療崩壊が報じられたイタリアでも、市民が立ち上がった。病院を取材中の記者が、患者が使用中の人口呼吸器バルブが壊れ、医療機器メーカーにも在庫が無いと知り、すぐ3Dプリンターの技術者に連絡しました。技術者は3Dプリンターを病院に持参し、ほんの数時間で人工呼吸器バルブを作りあげ、患者の命を救いました。技術者は、様々な医療機器の部品を製作し、設計データを世界中の医療機関へ無料で配布しています。[1]
[1] 3D Printing Media Network「Italian hospital saves Covid-19 patients lives by 3D printing valves for reanimation devices」(2020年3月14日)https://www.3dprintingmedia.network/covid-19-3d-printed-valve-for-reanimation-device/(2020年5月9日最終確認)
5.市民団体と企業の協働
スペインでは、一般市民がコロナ感染対策に医療用マスクを購買したため、病院の在庫が不足しました。そこで市民ボランティアと帽子メーカーが協力し、一般市民用のマスクの製作を開始しました。高温処理した綿100%で再利用が可能なこのマスクは、自治体からの注文が殺到した。生産量を増やすため、ラジオやSNSで素材メーカーに提供を呼びかけ、家庭でマスクを縫うボランティアを募集すると、2,000人が集まりました。ロックダウンが続く中、タクシーや配達ドライバーが、マスクの材料をボランティアの家庭に届け、完成品を回収しています。現在、136の自治体に50万枚のマスクを寄付しています。
マスク作りを支えるドライバーの皆さん。出典:RobinHat/Facebook https://www.facebook.com/pg/robinhatgorros/photos/?ref=page_internal
6.食材を届けるITベンチャー
英国のITベンチャー企業が、食材ロスを防ぎ、物流を止めないため、無償のプラットフォーム[1]を立ち上げました。ロックダウンによる飲食店の営業中止や学校の休校で、食品卸業者には大量の滞留在庫がありました。その一方、スーパーには食材が行き届いていませんでした。そこで、ITベンチャーは、食品卸売業者と買い手を直接つなぐオンラインの無償サービスを提供しました。このサービスを通じて、多くの慈善団体へも食材が届けられ、既に約180トンの取引が行われています。
[1] FRUPRO https://www.frupro.com/(2020年5月9日最終確認)
7.筆者(光岡伸洋)のコメント
COVID-19における世界中の市民の皆さんの活動より、私は東日本大震災を思い出しました。2011年、被災地に約96万人のボランティアが集結しました。福島原発事故で避難を余儀なくされた子どもや障害者を守るため、多くの若者や女性が立ち上がりました。大規模な災害が発生した時、自発的に立ち上がる市民の創造的な課題解決能力と行動力は底知れません。私も被災者支援の任意団体を設立して10年になりますが、目先の効率や経済を優先するのでなく、人と環境に優しい視点を大事にし、信頼を最優先することこそが長期的に大きな効果を生むと実感しています。
より良い社会の実現に向けて不断の努力を続ける個々人のおかげで、世界は良い方向に変化し続けています。例えば、極度の貧困の割合は、過去20年間で半分になりました。[1]自然災害で亡くなる人の数も、過去100年で半分以下になりました。[2]人類は、地球の存亡を危うくするような間違いも起こしますが、戦争や災害など大きな危機を経験することで、反省し、修正を行ってきました。
今、世界中に青空が広がっています。PM2.5の量が、パリで46%減、ソウルで54%減、ニューデリーで60%減、アメリカ北東部では2005年以来、大気が最も美しい状態になりました。ベネチアの水もかつてない透明度を取り戻しました。
気候変動の危機は瀬戸際まできています。コロナ危機収束後も、新たな感染症が生まれるリスクは高いと言われています。技術の進歩とグローバル化で、人類の及ぼす地球への影響は加速しています。ポストコロナをどう生きるのか。人類には2つの選択があります。既存の大量消費・環境破壊に基づく経済優先の社会に戻り、破滅に向かうのか。それとも、SDGsが示すような環境保全と幸福度を軸とした持続可能な社会へ変革するのか。グレタ・トゥーンベルやセヴァン・スズキのような若者が、大人たちに「地球を破壊して若者の未来を奪うのはやめて」と声をあげています。今、私たち個々人が、持続可能な社会への変革を自らの責務とし、希望に満ちた未来を創造する地球市民として協働することが求められています。
[1] Hans Rosling, Ola Rosling and Anna Rosling Ronnlund, FACT FULNESS, Great Britain: Sceptre, 2018, pp.51-52.
[2] Ibid., pp.107-135.